「鉄道忌避伝説の謎」
著者の青木栄一氏は交通史学者の第一人者だと三十一が勝手に思っている人物。「シーパワーの世界史」の最終巻は出ることがあるんだろうか。もし出たら少なくとも1冊は売れるはず。
この本では、誰もが一度は聞いたことがあるはずの「鉄道がはじめて引かれたころ、旧来の宿場町が反対したため、離れたところに線路が敷設された」という話が「伝説」にすぎず歴史的事実ではない、と言う。確かに当時の市街地からややはずれたところに駅や線路が設けられた例は多いが、密集した市街地の真ん中に線路をひいたり、駅を作るのはそれほど簡単なことではない、というのだ。考えてみればその通りである。
しかし後年、駅と旧市街の位置関係からそんなことを想像した当時の事情をしらない人物がまことしやかに「伝説」を伝えたのだろう。
この本を読んでいて思ったのが、「鉄道」というシステムに対する世人の無関心である。著者も「鉄道史はアカデミズムの対象ではなく趣味の部類に属すると考えられてきた」という趣旨の記述をしている。
三十一の実感でも、自動車などの類推で鉄道を語るものがけっこう多いようだ。「前に電車が詰まっている」と聞いて「もっと車間距離をつめればいいのに」と発言する輩とか、「電車はハンドル切らないでいいから運転は自動車より簡単だよね」という連中のことである。鉄道というシステムを知るものには噴飯ものの発言なのだが、同調する人間は珍しくない。
鉄道線路が市街地からはずれたことにありもしない「反対運動」を持ち出す人間が、国道のバイパスが町はずれの水田の真ん中を通っていることには何の疑問も持たないのは不思議である。
困ったことにこの「伝説」は初等教育の場であたかも事実であるかのように教えられているらしい。教える側の教師も疑問を抱く様子がないことから、この「伝説」がどれくらい「普及」してしまったかがわかるというものだ。しかし鉄道史の世界では「鉄道忌避」が「伝説」にすぎないことはかなり共通の認識となっているという。学校で嘘を教えるのは勘弁してもらいたい。「水伝」とやってることが変わらないぞ・・・
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