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2007年8月 2日 (木)

「戦争指揮官リンカーン」

この本で著者が目指していたのはふたつ。
第一に、電信がリンカーンの戦争指導に果たした大きな役割を検証すること。
第二に、南北戦争に始まる「正義の戦争」というテーゼがその後のアメリカの戦争観を支配したこと。

しかし、正直いってどちらもあまり成功しているとは思えない。
まず、第二点については、南北戦争当時のリンカーンの言動と、現代のブッシュの言動をかなり強引に結びつけていて、かえって説得力を欠いている。
そして第一点については、リンカーンが最終的に総司令官に選んだグラントや、その部下シャーマンは、リンカーンからの電信をわざと受け付けられない状況に持ち込んだ上で南軍に勝利している。リンカーンがグラントを抜擢し得たのは電信でその活動を知ることができたからだが、結局はリンカーンは少なくとも作戦に関してはグラントに任せていた。

むしろこの本から得られるのは、しばしば引用されているリンカーンの電信文の内容から、リンカーン自身がこの南北戦争をどう捉えていたか、である。
リンカーンはこの戦争を、「連邦分裂を防ぐための戦争」と考えていた。そのためには「奴隷解放」も手段のひとつに過ぎなかったし、軍事的に打倒する以外に南部が連邦に復帰するしかないと覚ると損害をいとわずに南軍の撃滅をめざし、またシャーマン将軍がジョージア州を徹底的に破壊するのを容認した。最終的な目的ととるべき手段ととり得る手段、もっとも効果的な手段を冷厳な目で見抜き、そして必要とあらば非難をおそれず断行した。

政治的な影響を恐れて「イラクでは10万人単位の兵力が必要」とする専門家の意見をしりぞけ、今になって泥縄式に兵力増強をはかるブッシュは、とてもリンカーンの後継とは言えない。

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コメント

初めて投稿させていただきます。
この夏は「帆船時代のアメリカ」上下、堀 元義著、朝日ソノラマ 新戦史シリーズ を読み反しました。 何年か前正月の退屈しのぎに帆船の事を読んでやろうと思って買ったのですが、今年になって知人から自費出版の本を頂きその中に維新時代の日本海軍創設期の事が書かれてました。
当時の船、艦の事を調べるつもりで読み返しましたらすっかり没入してしまいました。
この本はむしろアメリカの歴史そのもので、アメリカ海軍創設期の事が歴史、外交、などを軸に書かれています、そして筆者はこの本の中で殆ど同時期に創設された日本海軍やベトナム戦争まで言及しています。
現在のアメリカが建国以前からsea powerの充実によって支えられえ現在の超大国になった事が多くの参考文献とともに技術者らしく正確に書かれています。
この本が新戦史シリーズなどと言うカテゴリーに入れられたのが場違いのような気もします、本来アメリカ史、アメリカ海軍史とでも言える本でもったいない気がします。
むしろこのリンカーンの本の前に読んで頭に入れておくべき本かと思います。

投稿: fullahead | 2007年8月15日 (水) 08時23分

「帆船時代のアメリカ」はずいぶん前に読みました。10年くらい前かなあ。もっと前かも。
非常に楽しく、興味深く読んだ記憶があります。朝日ソノラマの同じシリーズのなかでは確かに異質ですね。単なる「戦史」というくくりには収まらない内容だと思います。
私もこの本はお薦めです。

投稿: admiral31 | 2007年8月16日 (木) 22時00分

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