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2008年7月18日 (金)

ひょっとして依頼されてますか?

だいぶ以前にとりあげた Wikipedia の「短期現役士官」だが、気がついたら加筆依頼のスタブがつけられている。すでにこのスタブのコメント自体にもツッコミを入れたくなった。昭和13年7月に任官した最初の主計科二年現役士官の中に小数だが主計少尉候補生がまじっている。つまり専門学校出身者だよね。拡大もなにも最初から対象なのだが。

主計科だけが短現じゃないこととか、帝国大学に限らず旧制大学卒業者も対象とか、多少の改善はみられているようだ。だけどね、そもそも背景が違うのさ。

軍縮で採用を減らした結果、兵科・機関科将校の配員に支障をきたしたことは事実だ。だがそれと二年現役制度はやや性格が違う。軍縮期の採用調整のおかげで不足したのは、第二次大戦期の中堅将校だ。

採用調整とは関係なく、一般に軍隊では平時に比べて戦時に必要な員数が極端に大きくなる。特に大量に必要になると考えられていたのは大中尉クラスの下級士官である。戦時に合わせて平時からつねにそれだけの人数を抱え込んでいるのは非効率だ。しかし軍人、とくに士官の養成にはそれなりの時間がかかる。戦時になってから対策をうっても戦力として間に合わない。平時からあらかじめ準備しておく必要があるのだ。これらの要員は、あらかじめある程度の軍務の経験と知識をもっておきながら、平時には一般社会で働き、戦時必要な際に召集されて軍務に就くことになる。

日本海軍においても、そのための制度は以前からあった。主に商船学校出身の商船乗組員を戦時に召集して勤務させる海軍予備員がそれにあたる。商船学校ではそのための軍事学の授業があったし、海軍将校も配属されていた。この海軍予備員と、かつて現役として勤務しながら配員の都合で現役を退いた予備役軍人が、戦時召集のためのプールとなる。余談だが、Wikipedia の海軍予備員の項目はなかなかよくできている。短期現役士官の執筆者にはみならってほしいものだ。

ところが、この海軍予備員は兵科および機関科だけが対象で、主計科や軍医科などの将校相当官ではこの制度は適用されない。そのために考え出されたのが二年現役制度で、大正14年にまず軍医科ではじまった。つまり、新任された軍医科士官のうち、これまで通り軍内でキャリアを重ねて昇進していく永久服役士官のほかに、短期間現役として勤務して軍務を経験したのちに予備役に編入されて一般社会で生活し、戦時に召集されて軍務に就く二年現役士官を一部採用したのだ。現役期間はひととおりの軍務を習得するために必要な二年間とされた。例えば二年現役士官を毎年20名採用したとする(昭和4年の実績は22名)と、平時のある一時点では現役として勤務している二年現役士官は40名。毎年20名ずつが入れ替わっていくので、10年この制度を続ければ予備役にある士官は200名となる。平時定員に比べて最大5倍の戦時定員が確保できる計算だ。

昭和13年に主計科および技術科(当時は造船・造機・造兵科)に拡充され、昭和17年に新たに武官化された法務科でも当然のように採用された。

ここで指摘しておきたいのは、二年現役制度を発足させるに当たり法令上の改定は必要なかったということだ。実は法令上二年現役制度の根拠はない。完全に海軍部内の運用だけで対応できた。もともと将校相当官の任用資格として大学・専門学校出身者というのはあった。軍医についてはずっとそうであったし、主計科でも経理学校で生徒教育がはじまるまではずっと大学・専門学校出身者を採用していたのだ。また、現役士官の誰をどのタイミングで予備役に編入するかは、人事を握る海軍大臣の専管事項だ。

採用される側の二年現役士官にもメリットはある。海軍士官に採用された時点で、当人は海軍兵籍に編入され士官の分限を得る。さもなくば――その他の未徴収兵と同じく――兵籍上は(ほとんどが)陸軍二等兵となってしまう。万一の戦時に、陸軍に一兵卒として召集されるのと、海軍で士官として勤務するのと、どっちが嬉しいかというのは当人次第だが、まあ、ほとんど後者だろう。

Wikipedia の記事では相変わらず「任期3年」などという意味不明な記述を掲載し続けている。そのうち気がむいたら三十一版の記事をどこかで紹介するかもしれない。ま、あてにしないで。


追記:

ひとつ書き忘れた。「海軍武官任用令」に、大学出身者は中尉に、専門学校出身者は少尉に任用すると明記されている。この規定は当然、二年現役士官にも適用される。

今見たら、主計少尉の任用条件が変だなあ。多分入力間違いだろう。

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