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2009年2月15日 (日)

撃ったら撃ち返される

今月の「軍事研究」誌(2009年3月号)の巻頭言で、志方もと陸将がパレスチナ紛争に触れていた。その末尾部分に触発されて思いついたこと。

いまでも戦争映画はときどき作られている。最近の戦争をとりあげた映画も多い。しかし30年くらい前までに作られた「ハリウッド大作映画」と、最近の戦争映画では取り上げ方がだいぶ異なる。ひとことでいうなら、視点が兵士や小部隊に置かれたミクロなものがほとんどになったということだ。それはそれでいいのだけれど、最近の戦争映画を見て戦争というものをわかった気になってはいけない。特に最近の戦争については、ニュース映像とこの種の映画で作られたイメージは実相と異なることが多い。第二次大戦については「史上最大の作戦」とか「バルジ大作戦」、「遠すぎた橋」などである程度マクロな視点から見ることができるだろう。これもあくまでも「ある程度」ではあるのだが。

前ふりが長くなった。ここからが本題なのだが、現代戦に必須の装備で一般にほとんど知られていないものの最たるものが対砲レーダーではなかろうか。一般に刊行されている装備年鑑にもちゃんと掲載されているので秘密でもなんでもないごくありふれた装備なのである。
対砲(あるいは対砲迫)レーダーというのは敵砲兵部隊が発射した砲弾を監視するレーダーで、砲撃が行われればそれから数秒程度で敵砲兵陣地の場所を特定することができる。「味方部隊が位置不明の敵砲兵から一方的に砲撃をうけている」という状況はすくなくとも現代の戦争では考えられない。
これを逆に砲撃する側から考えてみれば、ひとたび砲撃を開始すれば遅くとも数分以内、悪くすれば数十秒程度で反撃をうけることを覚悟しなくてはいけない。そのために現代の砲兵で重視されているのは陣地転換の容易さ素早さである。現代砲兵の多くは自走化されているが、かつての自走砲は機動力の高い機甲部隊に随伴することを主眼としていた。現代でもその能力は重要ではあるが、陣地転換が容易に行なえるということも現代では重視されている。
牽引砲であっても、いやむしろ牽引砲であるからこそ陣地転換は重要である。現代の砲兵にとって砲撃の精度と迅速さはもちろん重要だが、陣地転換をいかに素早く行うかが自らの生残性の向上(というのは戦闘力の維持ということでもあるのだが)にとって不可欠な要素になってくる。特に陣地進入よりも陣地撤収のほうが迅速さを要求されるのは容易に想像できるだろう。
そのために、現代の砲兵では実際の砲撃前に複数のできるだけ多くの砲撃陣地を構築しておくのが定石となっている。ある陣地から急速に敵部隊や陣地に砲撃を加えると、ただちに撤収してあらかじめ準備しておいた別の陣地に移りそこから砲撃を再開する。これを繰り返すのである。このような砲撃を行なう場合、かつての砲兵部隊のように弾着を観測しながらじっくり照準を修正するような悠長なことはできない。ひとつの陣地に長時間とどまるのは自殺行為でしかない。しかし弾着観測による照準修正そのものは不可欠であるから、異なる陣地から砲撃しても以前の弾着観測による修正作業が有効であるようにしなければならない。そのためには、各陣地同士の位置関係を厳密に把握し、A陣地で行なった砲撃の弾着を観測した結果がB陣地から砲撃する場合にはどのように適用されるべきかを算出してやる必要がある。陣地の位置関係把握にはGPSでしられる測位システムが利用される。またこれら複数の陣地からの弾着観測を相互に照準修正として適用するための統合された射撃指揮システムも必須だ。かつてはこのような複雑な射撃指揮は上位司令部で取り仕切っていたが、最近ではシステムの小型化高性能化が進んで前線の部隊指揮官が直接こうした修正ができるようになっている。

で、もとの「軍事研究」巻頭言にもどるのだが、志方もと陸将はハマス側が市場や学校や病院の近くからわざとロケット弾砲撃を行ないイスラエル軍の反撃を誘っている可能性を指摘している。目的はもちろんイスラエル軍の攻撃によって非戦闘員の損害を引き起こし、国際社会の非難を呼ぶためである。
自分の戦争目的を確信している交戦団体は、本来まもるべき弱者を平気で犠牲にすることがある。自分はすべてを擲って目的に邁進してるんだから、そのためには彼ら彼女らも犠牲になって当然というわけである。戦前の日本軍もこれに似た思考傾向を示していた。

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