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2011年7月26日 (火)

日本の新幹線は橋から落ちません

三十一が知るかぎり、少なくとも日本では列車同士の追突事故というのはここ数十年ないはずだ。信楽高原鉄道の事故は正面衝突だった。鉄道ではむしろ正面衝突よりも追突事故のほうがめずらしい。それは鉄道の保安がひとつの閉塞区間に一列車だけしか入線できないという閉塞システムを基本としているからだろう。しかし通票の取り扱いをひとつ間違えると正面衝突は起こり得る。

中国が威信をかけて建設した高速鉄道が追突事故を起こし、脱線した車両が高架橋から転落して多くの犠牲が出た。列車の片方は日本の技術を導入してつくったCRH2だった(原型はE2系)。しかし事故防止のための信号保安システムは中国の独自開発によるものだったという。中国当局は落雷による信号システムの故障が原因としているが、不測の事態が起きたときに最悪の結果に陥らないフェールセーフの視点が欠落していたか少なくとも不足していたことは否めない。もしも中国当局が「落雷による故障」が免罪符になると考えているようであれば、まさにそれこそが自ら安全について云々する資格がないということを暴露しているのに他ならない。

三十一がこのニュースを聞いたとき、驚きよりもむしろ妙な納得感が襲ってきた。最近の中国の高速鉄道の急速な進展に漠然とした危うさを感じていたのだろう。日本の新幹線は旅客の高速大量輸送に完全に特化し、専用の路線、専用の車両、専用のシステムをインテグレートして構成されており、余計な要素はすべて排除されている。しかし中国の高速鉄道は各国から技術を導入し、車両だけで4種類(だったと思う)が混在している。そこにこれまで高速鉄道運用の経験がない中国が独自に開発した保安システムだ。まともに機能するようになるには時間がかかるだろうし、それまでに事故が起きかねないことも予想はできたが、ここまでのわかりやすい事故が起きるとまではさすがに予想していなかった。

鉄道というと実際に人を乗せる車両や、その車両を支える線路がまず思い浮かぶだろうけれど、鉄のレールに鉄の車輪という自動車に比べて10倍滑りやすい組み合わせで、一編成で数百トンにもなる列車を数分間隔で正確に運行するためには、利用者から直接見えない信号保安システムが欠かせない。これは一朝一夕にできるような代物ではないのだよ。たいていのものをパクりで済ませようとするのに、なんで肝心なモノは独自開発なんだろうね。「パクれ」と言ってるわけじゃない、ちゃんと金を払っていいものを買えといっているのだ。そういう発想がそもそもないのかな。

ここんとこ、海外での日本の新幹線に対する評価はそれほど高くないような感じがあった。完成度は高いがシステムまるごとの導入になるのでハードルが高いと考えられているようだ。日本としてはシステムとしての完成度に自信があるからトータルパッケージとしての売り込みを図っているのだが、その価値を理解してもらうのはなかなか難しい。フランスやドイツ、韓国などのライバル国ではそれぞれの要素をバラ売りしており、新規導入を検討している国のほうでも、各要素を逐次買い足していくとか、あるいはそれぞれの安いものを組み合わせるとかいう導入のしかたで費用を抑えようとしている。日本ほどの大量高頻度輸送を求められているわけではないという事情もある。
だが今回の事故で、システムとして整合性がきちんととれていることの重要性が認識されただろう。日本の新幹線の安全性と正確性はシステムの賜物であるというセールスポイント自体は変わっていないが、今回の事故という反面教師を得て説得力は高まったに違いない。

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