« 図体は大きいがまだまだ子供だねえ | トップページ | 隕石と定量分析とスケール感 »

2013年2月 7日 (木)

「宇宙の傑作機 NK-15/33」

昨年末の冬コミ新刊。書影はこちらで

NK-33 はロシア製のロケットエンジンで、宇宙の傑作機シリーズでは以前の「RD-170」についで取り上げられている。著者も同じだ。
いきなり後書きに話が飛んでしまうが、その中で著者が「この本が上梓されるころには打ち上げられているだろう」と言っていた、NK-33 エンジンを使った Antares ロケットの打ち上げは3月に延びて、まだ打ち上げられていない。

NK シリーズはロシアのクズネツォフ設計局が開発したエンジンだが、同設計局は本来ロケットエンジンを専門とする組織ではなかった。実際に同設計局がロケットエンジンに関与していたのは、1970年前後のソ連が月を目指していた比較的短い期間でしかない。
ソ連(というよりコロリョフ)が月を目指して作り上げた、アメリカのサターンロケットに匹敵するロケットは N-1 ロケットだが、サターンロケットが巨大な F-1 エンジンを5基搭載したのに対し、N-1 ロケットの1段目は実に30基ものエンジンを搭載した。N-1 ロケットは1969年から1972年にかけて4回打ち上げが試みられたが、すべて失敗した。主な原因は30基のエンジンの出力をうまく同期できなかったことにあると考えられている。この N-1 ロケットに使われたエンジンが NK-15 であり、信頼性を高めたエンジンが NK-33 である。しかし、NK-15 の代わりに NK-33 を搭載した N-1F ロケットは、月計画の中止にともなって開発が中止され、NK-33 は実際に使われることはなかった。それまでに製造された NK-33 はいくらかが燃焼試験に使用されたものの、大部分は倉庫に保管されたままになっていた。

ソ連崩壊後、これらのエンジンが発見されて試験燃焼してみたところ、現在の同クラスのエンジンと比較しても遜色ない性能をたたき出した。これを実現したのは、酸化剤リッチ二段燃焼サイクル方式と、14.5MPa という高い燃焼圧だ。ケロシン/液体酸素系エンジンで酸化剤リッチ二段燃焼サイクルを実現したのは、NK-33 と RD-170シリーズしかない。NK-33 と RD-170 は、海面上比推力 300秒という、ケロシンエンジンとしてはほぼ技術的限界に近いと言われる値を実現している。実際のところ、米メーカーが提供しているケロシンエンジンには、このクラスの手頃なエンジンが用意されていない。米アエロジェット社は NK-33 を何十台かまとめて購入して売り込みにかかった。その結果が、3月に打ち上げられる予定のオービタスサイエンス社の Antares ロケットである。

冷戦に勝利して社会主義ソ連を崩壊に追い込んだアメリカだが、気がついたらアメリカが打ち上げるロケットのエンジンの大半が資本主義ロシア製のロケットエンジンになっていた、なんてことになりかねない。

|

« 図体は大きいがまだまだ子供だねえ | トップページ | 隕石と定量分析とスケール感 »

コメント

去年にDD-117[すずつき]とDD-118[ふゆづき]が進水しましたが更新はまだですか?またARC-482[むろと]は既に退役して現在はARC-483新[むろと]が公試中です。

投稿: 呉基地の人 | 2013年2月 8日 (金) 23時35分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/196234/56718446

この記事へのトラックバック一覧です: 「宇宙の傑作機 NK-15/33」:

« 図体は大きいがまだまだ子供だねえ | トップページ | 隕石と定量分析とスケール感 »