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2013年6月 5日 (水)

ガラ鉄。


twitter でもつぶやいたが、今月の鉄道ジャーナルでもっとも重要な記事は 72 ページからの「鉄道大国・日本の『成功』と『反省』」と題する論文。今月は前半で、後半は来月号に載るらしい。

鉄道ジャーナル誌(以下RJ)を丹念に読んでいると、同じような話は実はずっと言われ続けていて、昨日今日始まったことではないのだが、まとまった記事になるのはよいことだ。ただし、読者の多くは読み飛ばしているような気がする。

「日本の鉄道は世界一」とよく言われるが、実際には日本の鉄道は携帯電話と同じようにガラパゴス化して久しい。日本の新幹線の優秀性が高く評価されながらも、海外への売り込みにことごとく失敗しているのは、日本特有の条件を背景に組み上げられたシステムが現地の事情と整合しないからだ。
日本では「鉄道は独立採算であるべき」という常識がまかり通っているが、実はこれは海外特にヨーロッパでは非常識、と言って悪ければ「実現不可能な理想」でしかない。鉄道は道路や空港、港湾と同じ社会インフラとして公的な負担で整備・維持するべきものという考え方が一般的なのだ。鉄道は、数ある輸送インフラのひとつでしかないが、鉄道が最適解であると考えられるシーンにおいては道路と同じように税金を使ってでも整備・維持する。そのために上下分離方式をとって線路や施設の保有保守は国や地方自治体が責任をもち、その上で企業体が運行を独立採算で行なうというやり方が広く行われている。日本でも一部に地方私鉄では同じような形で支援を受けているが、自治体が特定の企業に支援することをよしとしない風潮はまだ強い。

確かに日本の鉄道企業の多くは現に独立採算制をとっていて、活動を継続できるくらいの利益を挙げているという事実がある。しかし実際にはそれを実現できているのは、東京や大阪などの世界有数の巨大都市とその近郊という市場で、鉄道がもっともその強みを発揮できる大量定型輸送を必要としているという条件があってのことだ。この条件は鉄道というインフラによってますます強化されている。
問題はこういう「特殊な」鉄道経営を、前提条件の異なる鉄道経営にもあてはめようとすることだ。これを推し進めていくと、結果として都市部以外の鉄道は生き残れない。それではいわゆる「交通弱者」が見捨てられてしまうので公的な負担で鉄道を含む交通インフラを整備維持する必要がある、というのが日本以外での一般的な考え方なのだ。しかし日本では肝心な国土交通省が縦割りで道路行政と鉄道行政がばらばらに動いており、両方のおいしいとこどりをするという発想がない。このご時勢、青天井で伸びていく見込みのない限られた予算を単に奪い合うのではなく、もっと有効に使ってほしいと思うのは納税者の端くれとして主張してもいいだろう。

もうひとつ、独立採算を前提する考え方から、結果として日本の大都市の鉄道網は世界でもまれに見る使いづらくわかりづらい仕組みになってしまっている。東京23区内だけを見てもJR、地下鉄2社(東京メトロと都営地下鉄)、大手私鉄7社(京急、東急、小田急、京王、西武、東武、京成)と、多くの事業者が入り組んでいて全部運賃が違うというのは、普段から使っているわれわれは慣れてしまっているが外から見たときには複雑怪奇であろう。ICカードの普及で精算は楽になったが仕組みの複雑さ自体は変わらない。
例えば何年か前のトロントを例にとると、市内の交通は地下鉄もバスも新交通システムも全部含めて2ドル均一だった。何回乗り換えても同じである。なんで例がトロントかというと、実際に三十一が何ヶ月か住んでいたことがあるというだけの理由なのだが。

鉄道もそうだけど、「優秀な日本の○○」というフレーズの多くは、実際に内容を精査していくとそんなに大したもんじゃない、という事例をいくつも見つけてしまった。○○には「ゼロ戦」とか「戦艦大和」とか「野球」が入ります。

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コメント

いつも静かに拝読しています。
初めて、コメントします。
秀逸な考察・指摘だと思います。
ガラ鉄。を具体的に説明し、比較検討を加えるとともに、他にも事例を挙げて、鉄道だけではないと示唆している。
特に、最後の8行は、主張を展開・拡張する、眼力が感じられ、印象深いものがあります。

投稿: CEer_どぼくん | 2013年6月15日 (土) 17時36分

ありがとうございます。
でも実はそんなに大したことを書いているわけではなく、ほとんどはすでに元ネタがある受け売りでしかないんです。
ただこういった認識がちょっとでも広まる手伝いができたらいいと思っています。

投稿: admiral31 | 2013年6月20日 (木) 20時27分

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