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2015年5月17日 (日)

いつか来た道

いわゆる「安全保障法制」が閣議決定された。

内容を見ていて「いつか来た道」という言葉を思い出した。
ただし、「赤い新聞」とか「赤い政党」とか「赤い団体」とか「赤い衝撃」(違う)が言うような「いつか来た道」とは少し意味合いが違う。

戦前の日本は後発国家として欧州先進国の帝国主義的な手法を後追いでなぞっていった。しかし完全にタイミングをはずしていた。
日本からすれば「他の国もしていたことをしていただけなのになんで」と言いたいのだろうが国際状況が変わってしまっている状態で同じことをしても同じ反応にならないのは当然だ。
例えばアヘン戦争以来100年近くにわたって英仏の搾取に苦しめられていた中国にしてみれば、「僕も仲間に入れて」と割り込んできた日本に対して「ふざけんな」という気持ちになるのは無理もない。想定外の反発に直面して日本側も感情的になりそのまま負の連鎖に陥ってしまったのだろう。
状況の変化やタイミングの違いを無視して「人と同じことをしておけば間違いない」と無難に走ったつもりが思わぬ結果に「こんなつもりじゃなかった」とうろたえる、という図式だと思うのだが、同じような図式は最近も見たことがないかねえ。
厳密に言えばそうした手法が明確に禁止されているわけではないのだが、「いまどきそうした手法はいかがなものか」という風潮が広まり始めた時期になってから「禁止されてないよね」とわかりやすい悪役を演じてしまうのが日本の役回りだとは思いたくないが実際そういうケースは少なくない。

安倍総理が打ち出している政策のうち多くは「普通の国になりたい」という願望から出ているように見えるが、その「普通の国」というのはいったいいつの「普通の国」なのか。まさかおじいちゃんが総理だった50年前の「普通の国」ではなかろうな。
法案の詳細を把握しているわけではないのだが、安倍総理が目指している「普通の国」のコンセプトはやや古いのではないか。せめて20年前、冷戦が終わってバブルが崩壊したころならばある程度通用したのだろう。しかし今となっては「なぜこの時期になって」という疑念を抱かれてしまうのは避けられない。

今から「普通の国」を目指すなら”今の”「普通の国」を目指すのはだめで、”これからの”「普通の国」を目指さなくてはいけない。
こうした作業は手本がないだけにこれまでの日本が経験してこなかった試みだ。前例主義の日本の官僚にはこうした発想は欠如しているが、政治が音頭をとって世界の前例を作るという意気込みで取り組んでもらいたい。

さて安全保障法制だが、目指しているところは(いまの)「普通の国」と変わらない。欧州諸国は当然のように集団的自衛権を行使し、集団安全保障体制に組み込まれている。細かい運用で問題が皆無というわけではないだろうが、いまのところ根本方針を変えようという議論にはなっていない。しかし日本ではどうしてこれほど強い拒否反応が起きるのか。
大きな変化には拒否反応がつきものだが、それだけではないだろう。どうしても日本には政治に対する不信感が強く、(そんなものが実際にどれくらいあり得るかは別として)独走を阻止できないのではないかという懸念があるのだろう。戦前の経緯からそうした懸念が生じるのだろうが、今の自衛隊には戦前のような独走の懸念はほとんど無いと言っていい。こうした点は引き続き広報していく必要がある。
それよりも問題は政治というものへの信用がないということだろう。その根本原因は有権者と政治の乖離にある。言ってしまえば「他人事」なのだ。政治は政治家がするもの、という感覚が強く有権者としての責任感が薄い。これでは本当の意味での民主主義が根付いていないと言わざるを得ない。
もうひとつは、文民統制(シビリアンコントロール)といいつつ統制する側のシビリアンに軍事的知識が欠けていてユニフォームに対抗できないことが問題だ。実は、戦前の統帥権独立の最大の問題点は軍事的知識を軍内に囲い込んで一般に軍事知識を持たせなかったために、軍人のいわゆる専門家的判断に寄りかかってしまったことだと思っている。日本では専門を極めることをよしとする風潮が強いが「専門馬鹿」を生んでしまうことにもなる。

一番重要なのは「個別的自衛権がいいのか集団的自衛権がいいのか」という神学論争ではなく、政治家と有権者が軍事知識を正しくもって情勢と政策を正しく判断できるようになることと、有権者が政治家をコントロールすることだ。これが実現すればその時々の情勢に応じて適当な政策が選択できるようになるので不毛な神学論争に陥らなくてすむようになる。

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