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2016年4月26日 (火)

蒼雲白剣瑞黒神赤

オーストラリアの次期潜水艦選定に関して、フランスのスコルペヌ級改良型が選定されたと発表された。日本は受注を逃した。

France wins A$50bn Australia submarine contract (BBC News)
France has won a A$50bn (€34bn; £27bn) contract to build 12 submarines for the Australian Navy, beating bids from Japan and Germany.

今回のことに限った話ではないが、日本人が陥りがちな誤解もしくは幻想がふたつある。

まずひとつは、高い技術力で良い製品を作れば必ず売れるという幻想。自分が何かモノを買うときのことを考えても、必ずしも「いいものだから買う」というわけでもない。製品のよしあしとは別に、価格だとか入手しやすさだとか大きさだとか頑丈さだとか、あるいはオマケの有無など、さまざまな要素が絡み合って購入行動は決まる。しかしなぜか自分が売る側の立場になったときにはそういうことはきれいさっぱり忘れてしまうのだな。日本が誇る新幹線がどうしてこれまで輸出に成功してこなかったのかを考えてみよう。日本の新幹線の技術力の高さを否定する人はいない。しかし実際に輸出できたのは台湾だけで、それも一度はヨーロッパ勢に負けていながら地震のおかげで逆転できた。

そしてもうひとつは、そもそも日本の技術力が高いという幻想。近頃テレビやほかのメディアで「日本の技術はこんなにすごいんだぞ」と自分で自慢する記事や番組をよくみかける。中には外国人を日本に呼んで彼ら彼女らが驚くところを見て喜ぶという悪趣味な番組もあるが、では日本に来た外国人が帰って日本のやり方を真似するかといえば多分しないだろう。自分達にはできないと思っているのか、それとも「そこまでやる必要はない」と思っているのか。あさっての方向に対して費やされた努力は努力のうちには数えられない。日本の消費者が求める方向とは合致しているのかもしれないが、海外から見たときにはあさっての方向に進んでいるようにしか見えないことがある。これがガラパゴス化だ。縮小しつつある一億二千万人の市場のために70億人の市場は捨てるのだ、という経営判断をするというならそれはそれぞれの企業の自由だが。
例えば日本が誇る新幹線だが、輸出市場で負け続けているのはすでに述べたとおりだ。先頭車両の微妙な形状を打ち出し板金で加工していて、これは日本でないとできない技術だと誇っているが、広々とした土地にゆったりと線路を敷き、上下線の間隔もたっぷり取られ、ほとんどトンネルはなくあったとしても断面積に充分な余裕があれば、先頭形状はそれほど気にすることはない。日本のように狭い土地で上下線の間隔は必要最低限とし、トンネルが多くしかも断面積がぎりぎりの大きさという条件だから、高速でトンネルに入ったときの微気圧波が問題になるのだ。そのために車両メーカーや鉄道総研では時間と費用をかけて最適な先頭形状を追い求めているが、前提となる制約がないところでは要らない努力だ。
日本の技術力の象徴である戦艦大和と零戦だが、実は海外では日本で言われているほど評価は高くない。アメリカ人にとって第二次世界大戦で最強の戦艦は大和ではなく自国のアイオワ級であることは疑いの余地はなく、イギリス人はそれを横目で見て否定も肯定もしない、というのが良く見られる図式だ。いまとなっては確かめようもないことだが、特にアメリカでは大和級での主砲の初速が低いことを問題にして、長砲身の16インチ砲を搭載するアイオワ級は砲戦力では大和級にひけをとらない、というのが大方の評価らしい。砲戦力が互角となるとそのほかの性能、特に速力の違いが優劣に影響する。結論としてアイオワ級のほうが強い、という論法だ。この理論をはっきりと否定するのは難しい。また零戦にしても、開戦当初は神秘的な格闘戦性能で連合軍の空軍をパニックに陥れたが、やがて実機を捕獲するなどして研究が進むとF4Fワイルドキャットでも戦術によって充分対抗できることがわかり、パニックも収まった。当時としては優秀な戦闘機ではあったが、無敵ではなかったというのが(日本以外での)最大公約数的な評価だろう。

さて潜水艦に話を戻して、今回日本とコンペになったのはドイツとフランス。どちらも潜水艦の輸出大国だ。この顔ぶれに日本が伍していけるのは、ドイツとフランスの輸出向け潜水艦のサイズが2000トン程度と中小型で、オーストラリアが求めている4000トン級の潜水艦についてはこれまでほとんど実績がなかったからだ。日本が現に建造しつつある潜水艦が、オーストラリアが求めるサイズに(西側通常動力潜水艦として)唯一合致する。どうしてこれまでドイツやフランスの輸出潜水艦のラインナップにこのサイズが無かったかといえば、単純に市場で需要が無かったのだ。現在の潜水艦市場での売れ筋は1000トンから2000トン程度。4000トンの潜水艦を求める国はほとんどない。売れ筋商品に対してラインナップが厚くなるのは当然だ。ドイツとフランスがそれでもオーストラリアへの商戦に参入したのは、これまで充分な実績のある2000トン型を拡大した新型商品でも、輸出実績のない日本には渡り合えると踏んだのだろう。
ところで最近、雑誌などで主要潜水艦の雑音放射レベルを図示したものとされるグラフを見ることがある。ロシア海軍から流出したものという触れ込みで、もっぱら中国の潜水艦の雑音放射レベルがロシアのものに比べてまだまだ相当大きいということを示すために使われているようだが、そのグラフを見て三十一が気になったのは、日本の潜水艦の雑音放射レベルが比較的高いところにプロットされていること。根拠は確かめようがないのだが、日本国内では「世界一静粛」とされる日本の潜水艦は実は言われるほど静粛ではないのかもしれない(日本人が日本製品に対して「世界一」というのはあてにならない、というのは経験則だ)。これが事実かどうかに関わらず、どこかの営業担当者が自社の(または自国の)製品の優秀さをアピールするのに使われたかもしれない。
売り込みにかかった日本の担当が企業なのか商社なのか、外務省なのか経済産業省なのか防衛省なのか防衛装備庁なのか知らないが、「日本の潜水艦は優秀でだから絶対売れるはずだ」という思い込みは一度捨てて虚心坦懐に自分の強みと弱みと相手の希望を見つめ直してみるべきだったろう。次があるなら教訓にしてほしい。


これまで日本が生み出してきた製品の中で、これだけは間違いなく自慢していいと言えるものが無いか、と考えてひとつだけ思いついたものがある。

「ウォークマン」だ。

音楽を持ち歩く、という発想はまったく新しいものだ。これが拡張されて現在の携帯電話やスマホにつながる「モバイル」「ウェアラブル」という文化が生まれた。ちまたに溢れる「歩きスマホ」を見ると辟易させられることもあるが、世界を変える出発点になったことは間違いない。
逆にいうとこれ以外に思いつかなかった。

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