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2016年12月27日 (火)

空飛ぶガスステーション

近頃話題の空中給油だが、ここで主なふたつの空中給油方式について説明しておく。そのなんたるかも理解していない言説があまりに目にあまり、まず基礎知識を得てから議論してほしいと思うからである。

ここではともに固定翼機である「給油機」と「受油機」がともに飛行しながら燃料を補給するケースについて考え、回転翼機(ヘリコプター)がホバリングしながらホースを吊り下げて艦船などから燃料を補給する方法は扱わない。

さてこうした空中給油には二つの方式がある。
・フライングブーム式
・プローブ・アンド・ドローグ式

フライングブーム式は主に米空軍が採用している方式で、航空自衛隊もこれに該当する。給油機から「フライングブーム」と呼ばれる給油パイプを伸ばし、これを受油機側の受油口(たいてい機体背部にある)に差し込んで給油するものである。
いっぽうのプローブ・アンド・ドローグ式は米海軍などで採用されている方式で、オスプレイの事故時の空中給油はこちらになる。給油機は、給油ホースを後方に流す。ホースの先端には「ドローグ」と呼ばれる漏斗状の受油口受けがついており、受油機は「プローブ」と呼ばれる受油口をドローグに突っ込んで給油を受ける。プローブは機首から長く突き出すか、あるいは引き込み式になっていて使用しないときは機首部に格納するようになっている。

フライングブーム式の特徴をまとめると、
・時間あたりの給油量が大きい
・受油機側は速度を合わせるくらいで特別な操作は不要
・給油機側に専用の機体と装備が必要
・給油機側にオペレーターが必要
・いちどに1機だけしか給油できない

プローブ・アンド・ドローグ式の場合は、この逆となる。特に受油機側は自らの操縦で自機のプローブをドローグに差し込まなければいけない。給油を受ける可能性があるすべての機体のパイロットがこの訓練を積む必要がある。
それでも米海軍がフライングブームではなくプローブ・アンド・ドローグ式を使い続けているのは、空母からの運用を想定しているからだ。原子力空母といえども搭載可能な機体数は限られるし、大きさにも限界がある。給油機のために専用機を用意しておく余裕はない。それに対してプローブ・アンド・ドローグ式なら増加タンクに巻き取り式ホースを取り付けた空中給油ポッドを懸吊すればどんな機体でも給油機になり得るのだ。今回のオスプレイの事故でも給油機は専用の空中給油機ではなく汎用輸送機 MC-130 に空中給油キットを搭載していたらしい。

なお、フライングブーム式の専用給油機でもプローブ・アンド・ドローグ式を併せ持つ、あるいは臨時搭載可能にしている機体は多い。米空軍のように専用の空中給油機をふんだんに用意できるならともかく、そうもいかない普通の国々にとってはプローブ・アンド・ドローグ方式のほうが汎用性が高いといえるだろう。このふたつの方式の間には互換性がないため、例えばもともと米海軍向けに開発された F-4 ファントム戦闘機を米空軍でも採用することになった場合は、フライングブーム式の受油口を追加するといった設計変更が必要になった。

空中給油の利点は飛行時間あるいは航続距離を伸ばすこと、とだけ考えるのは誤りで、それは現代では副次的な理由になっている。
たいていの機体で、最大離陸重量と最大重量の間には差がある。たとえば、一度浮いてしまえば50トンでも飛べる機体であっても、離陸時には40トン以下でないと飛び上がることができないということは普通のことだ。この場合、空中給油ができないとすると40トンでおさまる装備でしか作戦できない。つまり、武装か燃料のいずれか(あるいは両方)を削って40トン以下に収める必要がある。しかし給油ができるのであれば離陸時に燃料を全量搭載しておく必要はない。途中で補充できない武装はフル装備しておいて、そこそこの燃料で離陸した上で足りない分は空中給油すればよい。空中給油は作戦機の能力をフルに発揮させるためには非常に有効な手法と考えられている。「専守防衛だから空中給油は必要ない」というのは理由になっていないのだ。

# 「空飛ぶガスステーション」というのは空中給油機の愛称だが、実際にはいまどきガソリンを燃料とする軍用機はほとんど無い。ヘリコプターやプロペラ機も含めてタービンエンジンとするのが現在の趨勢で、軽油に近いジェット燃料が使用される。

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2016年12月26日 (月)

2016年12月の桜

12月22日付で今年最後の将の異動が発令された。
今回の異動は海3、空2。陸は無し。

(海)
武居智久 (B23) 海幕長>退職
村川豊 (B25) 海幕副長>海幕長
山川浩 (B28) 護衛艦隊司令官>海幕副長
糟井裕之 (B29) 海幕人教部長(将補)>護衛艦隊司令官

重岡康弘 (B25) 自衛艦隊司令官>退職
山下万喜 (B27) 佐世保総監>自衛艦隊司令官
佐藤誠 (B26) 補給本部長>佐世保総監
佐藤直人 (B28) 防衛装備庁プロジェクト管理総括官(将補)>補給本部長

堂下哲郎 (B26) 横須賀総監>退職
道満誠一 (B26) 潜水艦隊司令官>横須賀総監
佐藤精司 (東京大) 海幕装備計画部長(将補)>潜水艦隊司令官

(空)
福江広明 (B25) 航空総隊司令官>退職
前原弘昭 (B27) 航空総隊副司令官>航空総隊司令官
小野賀三 (B26) 幹部学校長>航空総隊副司令官
長島純 (B29) 航空教育集団幕僚長(将補)>幹部学校長

森本哲生 (B25) 航空教育集団司令官>退職
荒木淳一 (B27) 南西航空混成団司令>航空教育集団司令官
武藤茂樹 (B28) 統幕運用部長>南西航空混成団司令
増子豊 (B29) 航空支援集団副司令官(将補)>統幕運用部長

規模としてはそれほど大きくないが、海幕長を筆頭にトップクラスの役職が入れ替わった。特に海では、海幕長、自衛艦隊司令官、横須賀総監というトップ3がまるごと入れ替わった。空でも、航空総隊司令官、航空教育集団司令官という空幕長に次ぐ役職が交代している。

さて海幕長には、三十一が早々に外した村川海将が昇進し、重岡自衛艦隊司令官は武居海幕長とともに勇退した。ずいぶん先の話になるが、次は27期の山下(自衛艦隊司令官)または池(呉地方総監)海将あたりだろうか。
最近気になるのは、これまでのキャリアパスとはずいぶん様相の違った異動のしかたが見られるようになったこと。例えば今回、道満海将が潜水艦隊司令官から横須賀総監に移っているが、この異動は三十一が知る限り前例がない。それから佐藤(誠)海将の海自補給本部長から佐世保総監というのも初めてだ。海自補給本部長と言えば、このたび海幕長になった村川海将が、海将昇進後に最初についた役職が補給本部長だった。実は村川海将を海幕長候補からはずすときには、こうした履歴が念頭にあった。これまで補給本部長は海幕長を狙える出世コースには見えなかったのだが、それがここのところ変わってきているのかもしれない。これが今後も続く傾向なのか、一時的なものなのかは引き続き観察が必要だろう。

この異動とは別に、11月末に河野統幕長(21期)の定年が半年延長された。延長期間は来年5月末までだが、実際には3月末まで、つまり今年度いっぱいになるだろう。このタイミングで統幕長の交代が想定される。
今回交代した村川海幕長は候補になり得ない。陸か空かということだが、陸海空の順番を重視するなら岡部陸幕長(25期)、期別を重視するなら杉山空幕長(24期)となるだろう。
陸なら杉山空幕長は勇退、空なら岡部陸幕長は留任すると考えられるが、いずれにせよ空幕長は交代となる。その場合の後任は小城航空支援集団司令官(26期)だろうか。
陸幕長が交代する場合、鈴木中部、森山東部、小川西部各方面総監(いずれも26期)が横並びで誰になっても不思議ではない。

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2016年12月 7日 (水)

2016年11月の打ち上げ

前回よりは早いかな。

11月は9件。中国4、アメリカ2、ロシア1、ヨーロッパ1、日本1。

2日 0620GMT 種子島/H-2 (ひまわり9号)
3日 1242GMT 文昌/長征5 (実践 17)
9日 2342GMT 酒泉/長征11 (XPNAV 1)
11日 1830GMT バンデンバーグ/アトラスV (WorldView-4)
11日 2314GMT 酒泉/長征2 (YH-1)
17日 1306GMT クールー/アリアン5 (Galileo x4)
17日 2020GMT バイコヌール/ソユーズ (Soyuz MS-03)
19日 2342GMT ケープカナベラル/アトラスV (GOES-R)
22日 1524GMT 西昌/長征3 (天鏈 1-04)

一般ニュースでどうだか知らないが、個人的に最大の話題は新型の長征5。
ここ数年、中国が続々と新たな打ち上げ機を就役させているが、それはつまり新式のエンジンが実用化したということだ。長征5はその集大成ともいうべき機体で、一段目主エンジンの YF-77 とブースターに使用されるエンジンの YF-100 はいずれもこれまでの長征シリーズで使用されてきたエンジンとは一線を画している。とくに YF-77 は今回の打ち上げが初飛行となる。YF-100 は長征7の主エンジンとしてすでに数回の飛行をこなしている。

YF-77 は液体水素/液体酸素を推進剤とするエンジンで、現用のエンジンではアメリカの RS-68 (デルタ)、ヨーロッパの Vulcan (アリアン5)、日本のLE-7 (H-II 一段目)や LE-5 (H-II 二段目) と同じ組みあわせだ。この組みあわせは化学燃料ロケットとしてはもっとも効率の高いエンジンとなり、それだけハードルは高いわけだが燃焼サイクルにオープンサイクルのガスジェネレーター (GG) を採用した手堅い設計になっている。これは Vulcan や RS-68 と同じ方向性だ。LE-7 や SSME (スペースシャトルメインエンジン)は二段燃焼サイクル (SC) の凝った構造を採用しているがそれとは対照的である。

いっぽうで YF-100 はケロシン系燃料と液体酸素の組みあわせで、液酸液水に比べるとパワーが出しやすい。ブースター向けということだろう。ところが中国ではこのエンジンで酸素リッチ二段燃焼サイクル (ORSC) を採用した。これはアメリカでもまだ実用化できていないエンジンで、100トンクラスのエンジンとしてはロシアの RD-180 シリーズしかない。NK-33 もそうだがもはや「現用」とは言えまい。

YF-77 二基をメインエンジンにして、YF-100 二基からなるブースターを4本束ねた長征5では、海面上推力は1000トンを超す。三十一のざっくりした感触だが地球低軌道に20トン、静止軌道に5トンの打ち上げ能力はあるだろう。大型の衛星打ち上げはもちろん、上部段を使って複数の衛星を別々の軌道に打ち上げることでひとつひとつのコストを下げるということもできるだろう。衛星打ち上げサービスにおいて、これまでの安かろう悪かろうから脱却しようとしている姿勢がうかがえる。

最後にひとつ重要なことを指摘しておくなら、これらの新型ロケット(エンジン)は軍事用への転用は難しい。衛星打ち上げと弾道ミサイルには共通点は多いが、それぞれの最適解を追い求めるとどうしても相容れない部分が出てくる。中国にとって衛星打ち上げは、ミサイル開発の余技ではなくそれ自体が目的となってきていることを示しているのだが、一般ニュースでそうした分析をしているところは見たことがない。

Orbital Launch Chronology

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