「武士の起源を解きあかす」
古くからの読者は知っていると思うが、いわゆる「武士論」について三十一は高い関心を持っていろんな本を読んだりしてきている。 書店で初めて見かけたときに無条件で買ったのだがなかなか読み進められず、紙とは別に電子版も買って読み続けてようやく読み終えた。
そこまでしてどうして読み終えたかというと、最後までちゃんと読まないと文句が書けないからだ。
著者はもともと武士論を研究していたわけではないらしい。しかしたまたま必要になって調べてみたところ、武士の起源についていまだに定説がないことに愕然として、それなら自分で確かめようと思ったらしい。
著者の主張についてここで詳細に述べることはしない。知りたい人は自分で読んでほしい。 三十一は読んでいる途中かなり早い段階から感じていたことがあり、それは読み終えても変わらなかった。著者の主張そのものにはそれなりに高い蓋然性があることは認める。実際そうした状況はあっただろう。しかしそれは著者が全巻を通じて「証拠がない」とか「想像にすぎない」と一刀両断した既存の説と何が違うのか。他人に対して証拠云々を求めるわりには、「だろう」とか「違いない」とか「そう考えるのが自然だ」とか、推量の表現を多用しておりダブスタではないかという感想を禁じえない。
要するに、多種多様な諸説が主張されているがどれも決め手を欠いて誰もが納得するような定説が確定していない現状に、もうひとつ「諸説」が加わったという以上の意味はないのではないか。 著者が主張するような「武士の起源」は確かにあったかもしれない。しかしそれが「すべてだ」というのは不可能だ。それは「悪魔の証明」の域に属する。
残念ながら、著者の鼻息の高さほどには画期的な内容とは受け取れなかった。 もう少し抑制の効いた筆致であれば説得力も高まったであろうに。
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