2019年4月28日 (日)

雨のヨコスカ

連休初日の今日は横須賀に行ってみる。
天気予報によると関東南部は午後には不安定な天候になるということだが、それほど長居をしなければ大丈夫だろうと、見切り発車で出撃する。
横須賀線の電車で横須賀に向かう。横浜あたりまでは曇りだったが、戸塚あたりで気がつくと雨になっていた。ああ、降ってきちゃったなあと思っているうちに大船から鎌倉あたりでは本降りになってしまった。これは困った。実は今日は、カメラの撮り比べをしてみようかとデジタル一眼とミラーレスの2台を鞄に詰め込んできていたのだが、この天気ではどちらも鞄から出したくない。今乗っている横須賀線の電車は逗子どまりで横須賀に行くためには乗り継がなければいけないのだが、このまま横須賀に向かってもしょうがない。そこで逗子で一度改札を出て、京急の新逗子駅に向かう。

京急の路線では本線筋の泉岳寺から三崎口まですでに乗車済みだが、分岐となる逗子線と浦賀方面が未乗車のまま残っていた。今日は横須賀の帰りにこれらの路線に乗ってこようと思っていたのだが、予定を変更して先にこれらの路線に乗車してから横須賀に行ってみることにした。うまくすればちょうど小降りになったりするかもしれない。そううまくいかない可能性ももちろんあるわけだが、うまくいくかもしれない。そこはもう賭だ。
逗子駅前で地図を見て京急新逗子駅まで歩く。新逗子駅は、こういうのも橋上駅舎と言っていいんだろうか。地平のホームにおりるとちょうどエアポート急行が入っていた。急行列車に3駅だけ乗ると本線との合流になる金沢八景駅。金沢八景といえばこの3月のダイヤ改正でシーサイドラインが仮駅から新駅に延伸してきたところだけど、その関係か構内は工事中。地下道で隣のホームに移って各駅停車で浦賀に向かう。馴染みの汐入、横須賀中央を経て浦賀へ。
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浦賀から折り返した列車には防衛大生が乗っていたが、空いていても座らないのは躾だろうか。防大生は堀ノ内で急行に乗り換えていったが、三十一はこのまま各停で汐入まで行く。
時間をつぶしてはみたものの、やはり雨。閉店したショッパーズプラザを横目にヴェルニー公園にむかう。公園の岸壁から港内を見渡してみたが目新しいフネは見当たらない。逸見岸壁に「いずも」、吉倉桟橋に補給艦「ときわ」、その向こうに碇泊艦があるかもしれないけれど、「ときわ」に隠れてわからない。米軍側ではまず目につくのが DDG-85 McCampbell、それから一番近いところに海自の「おやしお」型潜水艦。よく見ると左のほうにもう一隻。さらに McCampbell の右側に艦尾がみえている。都合3隻の海自潜水艦が見えているが、すべて「おやしお」型で今日は「そうりゅう」型は見られなかった。
McCampbell を含めてアーレイバーク級イージス駆逐艦が5隻、さらにタイコンデロガ級巡洋艦が少なくとも2隻は停泊しているようだ。なんだかんだで、イージス艦がこれだけまとまって見られるところは日本では横須賀だけ、世界的にも数少ないだろう。
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しかし雨がやむ気配もないのでJRの横須賀駅から帰宅する。横須賀線車内から見ると、吉倉桟橋には「あさぎり」型護衛艦が1隻停泊していたようだが艦名まではわからなかった。
帰宅途中に秋葉原に寄り道したのだが、その途中で少し遠回り。

今日の旅程:
新橋(1056)→逗子(1159) 1017S
新逗子(1213)→金沢八景(1220) 1219D
金沢八景(1227)→浦賀(1252) 1048
浦賀(1257)→汐入(1311) 1248
横須賀(1355)→横浜(1442) 1368S
横浜(1449)→中目黒(1516) 017142
中目黒(1520)→秋葉原(1551) 1501T

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2019年4月20日 (土)

「ハンターキラー」

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公式サイト

「潜水艦モノに外れなし」が売り文句だということだが、まあ「外れ」ではなかった。

たぶんバージニア級原潜が主役になる映画は初めてだろう。米海軍の協力で実艦をつかって撮影されたということだが、問題は敵役となるロシア海軍艦艇だ。アクラ級潜水艦はCGだろうけど、三十一にとっての影の主役は全編にわたって要所で登場するウダロイ級駆逐艦。「ネヴチェンコ」という艦名はもちろん架空のものだが、全景からアップから艦内描写まで、興味深い映像が多々見られたものの疑問なのは「この映像はどうやって撮ったんだろう」ということ。まさかこの映画にロシア海軍が協力するとも思えないし、セットとCGだろうか。

ストーリー自体はよくできていて映画としてはいい映画と言えるだろう。

個人的には、あたかも海中の様子が「見えている」かのような描写や、打ち出した魚雷に目標変更を「指示」している描写など、わかりにくい海中戦闘を観客にわかりやすく見せる演出は潜水艦映画の定石ではあっても、実際の潜水艦戦闘の実相とは必ずしも合致しないと思っている。

映像的には収穫は多々あって、米軍ロシア軍の艦艇航空機がいろいろ出てくるので、メディアで発売されたら買ってしまうかもしれない。ただあの両国艦隊の密集隊形は映画用だなあ。

追記:

ひとつ書き忘れていた。"Commander Glass" に「グラス指揮官」と字幕をつけてたけど、"Commander" は「中佐」だから。公式サイトに貼られている写真にも "J. GLASS CDR USN" って映ってるでしょ。

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2019年3月28日 (木)

2019年4月の桜

統合幕僚長・河野克俊 (海/防大21) > 退職
陸上幕僚長・山崎幸二 (陸/防大27) > 統合幕僚長
西方総監・湯浅悟郎 (陸/防大28) > 陸上幕僚長
統合幕僚副長・本松敬史 (陸/防大29) > 西方総監
中空方司令官・増子豊 (空/防大29) > 統合幕僚副長
統幕運用部長・引田淳 (空/防大31) > 中空方司令官
海自1術校長(将補)・中畑康樹 (海/防大30) > 統幕運用部長


海上幕僚長・村川豊 (海/防大25) > 退職
海上幕僚副長・山村浩 (海/防大28) > 海上幕僚長
統合幕僚校長・出口佳努 (海/岡山大) > 海上幕僚副長
第6師団長・清田安志 (陸/防大29) > 統合幕僚校長
中方幕僚長(将補)・蛭川利幸 (陸/防大31) > 第6師団長


自衛艦隊司令官・山下万喜 (海/防大27) > 退職
護衛艦隊司令官・糟井裕之 (海/防大29) > 自衛艦隊司令官
海自幹部校長・湯浅秀樹 (海/防大30) > 護衛艦隊司令官
海幕総務部長(将補)・乾悦久 (海/防大31) > 海自幹部校長


第10師団長・甲斐芳樹 (陸/防大28) > 退職
防研副所長(将補)・鈴木直栄 (陸/防大30) > 第10師団長


陸総隊幕僚長・藤田浩和 (陸/防大28) > 退職
第15旅団長(将補)・原田智総 (陸/防大31) > 陸総隊幕僚長



2019年4月1日付。将の勇退は陸2、海3。昇任は陸3、海2。
河野統合幕僚長は3度の定年延長の末、4年半近くの長期在任がついに終わる。交代をちょうど年度変わりの4月1日としたのは異例だがどういう意図だろうか。
いずれにせよ、統合幕僚長は防衛大21期から27期へと一気に若返る。大震災当時の折木統幕長以来の陸出身、山崎新統合幕僚長は何年つとめるだろうか。山崎陸幕長が昇格したので陸幕長も必然的に交代し28期の湯浅西方総監が就任、同時に海も25期の村川海幕長が勇退して28期の山村副長があとを襲う。空は27期の丸茂空幕長が留任し、4人の幕僚長が27期と28期でそろうこととなった。
鬼が笑うような話だが、次の統幕長は順当にいけば空の番。しかし、現職が同じ27期になってしまったため丸茂空幕長の昇格はなくなった。次か、次の次か、いずれにせよ未来の空幕長が統幕長に進むことになるだろう。


海では自衛艦隊司令官も勇退。後任は護衛艦隊司令官からの昇格だが、護衛艦隊から自衛艦隊に直接異動するのは意外に珍しい。糟井新司令官は護衛艦隊を2年あまりつとめているので閲歴は十分と考えられたのだろうか。そのほか、陸では総隊幕僚長が交代した。


幕僚長を除けば全体に小幅な異動だったが、三十一が注目したのは統幕の顔ぶれ。幕僚長と統幕校長を陸が占め、副長は空から。では海は、と見ると将ポストの運用部長にいちおう名を連ねている。かつては議長と事務局長、統幕校長を陸海空でわけあうのが不文律だったが、統合運用が始まって運用部長が将ポストになり少し様相が変わってきたようだ。


 

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2018年9月 3日 (月)

2018年8月の桜

すでに1月前になってしまったが、8月1日付で制服組の異動があった。将では9人(陸6、海1、空2)が勇退/昇任した。
陸上総隊司令官・小林茂(27)>退職
東部方面総監・住田和明(28)>陸上総隊司令官
陸幕副長・高田克樹(29)>東部方面総監
第7師団長・小野塚貴之(30)>陸幕副長
陸幕防衛部長(将補)・前田忠男(31)>第7師団長


東北方面総監・山之上哲郎(27)>退職
防衛大幹事・上尾秀樹(29)>東北方面総監
第9師団長・納冨中(29)>防衛大幹事
第12旅団長(将補)・岩村公史(29)>第9師団長


陸自富士校長・徳田秀久(27)>退職
第4師団長・高田祐一(30)>陸自富士校長
陸幕運用支援訓練部長(将補)・沖邑佳彦(31)>第4師団長


陸自補統本部長・金丸章彦(27)>退職
陸自関東補給処長・山内大輔(29)>陸自補統本部長
東北方幕僚長(将補)・権藤三千蔵(29)>陸自関東補給処長


大湊地方総監・中西正人(27)>退職
海幕防衛部長(将補)・酒井良(31)>大湊地方総監


航空総隊司令官・前原弘昭(27)>退職
航空総隊副司令官・武藤茂樹(28)>航空総隊司令官
中部空方司令官・金古真一(30)>航空総隊副司令官
統幕運用部長・増子豊(29)>中部空方司令官
西部空方副司令官(将補)・引田淳(31)>統幕運用部長


防衛装備庁装備官(陸)・手塚信一(27)>退職
第1師団長・柴田昭市(29)>防衛装備庁装備官(陸)
第11旅団長(将補)・竹本竜司(30)>第1師団長


防衛装備庁装備官(空)・橋本尚典(27)>退職
空幕防衛部長(将補)・内倉浩昭(31)>防衛装備庁装備官(空)


札幌病院長・上部泰秀(M6)>退職・中央病院長
中央病院副院長・大鹿芳郎(M8)>札幌病院長
福岡病院長(将補)・鈴木智史(M10)>中央病院副院長
今年の3月に就任したばかりの陸上総隊司令官が早くも交代。初代は中央即応集団からの横滑りになったが、半年も経たずに勇退して東部方面総監から住田陸将が移った。有事に方面隊を指揮する立場にある総隊司令官が、方面総監を経ていないという状態には不都合があったのだろう。
陸にあわせるかのように、空でも総隊司令官が交代して、こちらは副司令官が持ち上がり。大きな異動はこのくらいか。
さて、延び延びになっていた自衛隊主要幹部表を更新。3月の改編では陸自の幹部学校と中央即応集団と研究本部が廃止されて陸上総隊と教育訓練研究本部に再編されるという大きな組織変更があって、表に新しい列を加えなければいけなくなり面倒で後まわしになっていたのだが、ようやくできあがった。

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2018年3月28日 (水)

2018年3月の桜

3月27日付で春の異動が発令された。
異動自体は小規模だが陸上総隊の新編という目玉が含まれている。
将の昇進・勇退は陸2、海1。空の異動はなし。

(陸将)
陸上総隊司令官・小林茂(27期)<中央即応集団司令官

陸上総隊幕僚長・藤田浩和(28期)<陸自高射学校長(将補)

陸自教育訓練研究本部長・岩谷要(28期)<陸自研究本部長

退職・西浩徳(28期)<陸自幹部学校長

(海将)
退職・道満誠一(26期)<横須賀地方総監
横須賀地方総監・渡邊剛次郎(29期)<教育航空集団司令官
教育航空集団司令官・西成人(30期)<横須賀地方総監部幕僚長(将補)

陸上総隊司令官は中央即応集団からの横滑り。結果として異動は最小限となった。
総隊幕僚長が将ポストになったその引き換えに陸自幹部学校が廃止されて研究本部と統合され、陸上自衛隊教育訓練研究本部となった。教訓研究本部長はこれまた研究本部長の横滑り。

海では横須賀総監が勇退し、その穴を埋める形で順次昇進。
統合幕僚長の交代がこの春にあるだろうと予想していたが、見送られた。河野統幕長の定年延長があるとすると三度目になる。

さて陸上総隊は「陸自始まって以来の改革」といわれているが実際には大山鳴動してなんとやらの印象。各方面隊はそのまま残り、平時には陸上総隊との隷属関係はなく、有事の場合に指揮を受けるとされている。
中央即応集団に少し隷下部隊を追加して格上げしただけともとれる。ましてや幹部学校を廃止して研究本部に統合したのは幕僚長を将配置にした分、陸自全体での将ポストの数を変えないためのつじつま合わせに見えてしまう。

今後さらに総隊の編成が変わることがあるのだろうか。
個人的には、師団や旅団といった実働部隊は陸上総隊に隷属させ、方面隊では駐業とか補給処といった補給支援に特化したほうがいいと思う。

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2017年12月14日 (木)

2017年12月の桜

12月20日付の異動。
将昇任は陸1、海5、空2。退職は陸1、海4、空3。

航空幕僚長 杉山良行 (B24) > 退職
航空幕僚副長 丸茂吉成 (B27) > 航空幕僚長
航空開発実験集団司令官 荒木文博 (B28) > 航空幕僚副長
航空幕僚監部装備計画部長 井上浩秀 (85学習院) > 航空開発実験集団司令官

第3師団長 角南良児 (B27) > 退職
西部方面総監部幕僚長 田中重伸 (B30) > 第3師団長

潜水艦隊司令官 佐伯精司 (84東大) > 退職
統合幕僚監部総務部長 高島辰彦 (84京大) > 潜水艦隊司令官

佐世保地方総監 佐藤誠 (B26) > 退職
舞鶴地方総監 菊地聡 (B28) > 佐世保地方総監
海上幕僚監部装備計画部長 中尾剛久 (B29) > 舞鶴地方総監

航空総隊副司令官 小野賀三 (B26) > 退職
南西航空方面隊司令官 武藤茂樹 (B28) > 航空総隊副司令官
航空幕僚監部運用支援・情報部長 上ノ谷寛 (B30) > 南西航空方面隊司令官

自衛隊中央病院副院長 柳田茂樹 (M5) > 退職
海上幕僚監部首席衛生官 佐藤道哉 (M8) > 自衛隊中央病院副院長

情報本部長 宮川正 (82日大) > 退職
海上自衛隊幹部学校長 大塚海夫 (B27) > 情報本部長
掃海隊群司令 湯浅秀樹 (B30) > 海上自衛隊幹部学校長

防衛装備庁長官官房装備官 舩木洋 (85横国大) > 退職
海上自衛隊補給本部長 佐藤直人 (B28) > 防衛装備庁長官官房装備官
海上自衛隊第3術科学校長 大島孝二 (B29) > 海上自衛隊補給本部長

杉山航空幕僚長が勇退。
こうなると次の統幕長は、8月に陸幕長になったばかりの山崎陸将(27期)か、あるいはまさかの海から連続で村川海将(25期)か。

河野統幕長の定年延長はすでに2回、来年5月末に延長期限が切れるけれども、3回目の延長はあるだろうか。

もう私にはわかりません。

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2017年11月24日 (金)

アルゼンチン軍艦サンフアン

アルゼンチン海軍の潜水艦サンフアン ARA San Juan が先週以来消息を絶ち、捜索が続いていたが現地の23日に海軍当局が絶望との見解を示した。捜索自体はなおしばらく継続されるようだ。三十一は 17日の発表以来強い関心をもって見守ってきたが最悪の結果になりそうで残念でならない。

TR-1700 型潜水艦はドイツのティッセン社の建造になる。アルゼンチン海軍は2隻を保有しており、それぞれ 1983年、1985年に就役している。フォークランド戦争の直後にあたるが建造自体はそれ以前から決まっていて直接の関連はない。当初計画では6隻を整備しそのうち最初の2隻をドイツで建造して残り4隻を国内で建造するとしていたが、結局国内建造の4隻は建造がストップして部品を共食い整備に供する形となっている。うち1隻は70%完成状態ということで建造再開が何度も取り沙汰されるが今に至るも中断状態で30年近くになる。
戦後ドイツの潜水艦は世界的に輸出に成功しており、TR-1700 もその例に含まれるが、標準的なタイプ 209 あるいはタイプ 212/214 潜水艦が各国に輸出されているのに対して TR-1700 はアルゼンチン海軍専用になっている。タイプ 209/212/214 に比べるとひとまわり大きい。とは言え、性能自体は特筆するものがなく、冷戦期の標準的な通常動力(ディーゼル電気)推進潜水艦である。
アルゼンチンでは 1982年のフォークランド戦争敗戦以降、軍の威信が大きく落ちて軍事政権も崩壊し、インフレもあいまって国防予算は低い水準に抑えられている。TR-1700 の建造中断もそのせいだ。アルゼンチン海軍の水上艦艇はそれなりに更新されているが、潜水艦戦力の整備は停滞している。また予算不足で補給整備に支障をきたしているとも伝えられる。

さて問題のサンフアン ARA San Juan (ARA Armada de la Republica Argentina はアルゼンチン軍艦につく接頭語)は、訓練後にアルゼンチン最南端、チリとの国境に近いウシュアイア Ushuaia に寄港したのち、アルゼンチン海軍の主要基地で首都ブエノスアイレス南方400キロにあるマル・デル・プラタ Mar del Plata に向け出港した。
ところが 11月15日朝にパタゴニア沖の南大西洋から最後の連絡があって以降、消息が途絶えた。最後の連絡地点はサンホルヘ湾 Golfo San Jorge の東240海里だったという。このあたりは大陸棚で水深は比較的浅い。浅いと言っても200m以下という程度だが、海底に沈座してもただちに圧壊するというほどではない。潜水艦自体に問題がなければ、だが。

もともとサンフアンには電気系統の問題があったらしい。火災が発生したという報道もあったようだが未確認だ。17日になってアルゼンチン海軍がサンフアンの行方不明を発表したときには、電気系統の問題で通信できない状態にある、という見解をしめしていた。アルゼンチン海軍のプロトコルでは潜水艦が通信できない状態になった場合はただちに浮上することになっているため、当初は「やがて連絡がつくだろう」と語っていたが該当海域では荒天がつづいて思うように捜索ができない状態だった。この海域は悪天候で有名で「荒れる40、吼える50」(南緯40度・50度付近)と古来呼び習わされている。報じられているように波高が7メートルとか10メートルとかある状態では、2000トンそこそこの潜水艦では浮上航行は困難だろう。むしろ荒天の場合は潜航していたほうが安全だ。

サンフアンで実際にどのような問題が起きたのかは現時点では全く不明なので推測するしかないのだが、荒天下で潜航を続けられないような重大な問題(例えば火災、水密構造の損傷、圧縮空気の不足など)が発生したとなると状況はかなり厳しくなる。この荒天ではシュノーケル航行も難しい。潜水艦はもともと予備浮力が小さいので浮上しても復元性はあまりよくないだろう。
電気系統の問題などによって航法システムに問題が生じたということも考えられる。まともな潜水艦であれば当然推測航法の訓練はしているだろうが、それすらできない状況になったとすれば潜水艦にとって最善の策は海底に沈座して連絡を待つことだろう。天候が安定していれば浮上して待つこともできるだろうが、実際にはそうしたことができるような天候ではなかったようだ。
こうした問題が複数起きた場合にはさらに厳しい状況に陥る。例えば火災で電気系統とあわせて水密バルブが焼損したというような場合は悪天候であっても危険を覚悟で浮上漂泊せざるを得ない。

いっぽう、海底に沈座した状態で浮上もできなくなった場合、乗員は艦を捨てて脱出することになる。外部からの援助が期待できない場合、一般に用いられるのは自由上昇法だ。スタンキーフードと呼ばれる上半身を覆うフードがあれば着用し、無ければ生身のままハッチから数人ずつ艦外に出て海面を目指す。自由上昇法で脱出を試みた例は過去にもあるが、数十メートル以上の水深からの脱出の場合、生還率はあまり高くない。ましてや海面が荒れ模様の場合は首尾良く海面まで到達できたとしても救助は期待できない。一部の潜水艦で採用されている浮上式の救難ブロックなどがあればまだ望みはあったかもしれないが、TR-1700 型に装備されているという話は聞かない。
海上から潜水艦の位置が特定できれば、レスキューチェンバーあるいはDSRV(潜水救助艇)などの救助手段を駆使して潜水艦から乗員を海水にさらすことなく救助できる。しかしそれも天候が安定していればの話。荒天下ではチェンバーを下ろすあるいはDSRVを着水させるのもままならない。それどころか、荒天下ではソナーによって潜水艦の位置を特定すること自体が難しい。またアルゼンチン海軍はこうした救難設備を保有していないようだ。むしろこうした設備を保有している国は少数派だ。16隻の潜水艦に対して2隻の潜水艦救難艦を配備している海上自衛隊は世界でも珍しい部類に入る。こうした設備がもっとも充実しているのはもちろん米海軍で、24時間以内に世界のどこにでもDSRVを空輸できるとされている。アルゼンチン海軍も実際には米軍だのみだったのだろう。
なお潜水艦の多くでは救難ブイを装備している。遭難した際に救難ブイを切り放すと、海面に浮上して救難信号を発信する。この救難ブイが発見できればブイに接続されているケーブルをたどって潜水艦のハッチにまでたどり着ける。一時、救難信号らしき衛星通信が傍受されたという報道が流れたときには救難ブイ経由の通信かと思ったのだが、のちにこの通信はサンフアンからのものではなかったとされている。

結局、米英海軍や近隣諸国の支援を受けた捜索は功を奏さず、一週間経過してもサンフアンは発見できずにアルゼンチン海軍で初めての女性潜水艦乗組士官を含む44名の乗員は絶望的とみられている。22日になって、CTBTO(部分的核実験禁止条約機構)の地震計がサンフアンが消息を絶った 15日に付近で爆発音を探知したことが伝えられ、これが関連しているのではないかと取りざたされているが確認されていない。
サンフアンはAIP(非大気依存推進)ではないし、仮にAIPだとしても人間が消費する酸素を無限に生成できるわけでもない。充電のためには少なくともシュノーケル深度まで浮上して外気を吸引してディーゼルエンジンを稼働させる必要がある。酸素を補給できるのもそのタイミングしかない。当初アルゼンチン海軍は「酸素は2週間もつ」としていたが潜水艦自体に重大な問題があったとするとそれも楽観的過ぎるかもしれない。

アルゼンチン海軍が保有している潜水艦はわずか3隻。そのなかでももっとも新しい(といっても1985年就役で艦齢は32年になる)潜水艦の乗組員は選ばれた人材であるはずだ。その貴重な44名をみすみす失おうとしている海軍に対してアルゼンチン国民はどう反応するだろうか。

日本の海上自衛隊は先述の通り16隻の保有潜水艦に対して2隻の潜水艦救難艦(呉と横須賀にそれぞれ配置)を用意している。また呉の潜水艦教育訓練隊には巨大なプールがあって海底の潜水艦から脱出する想定の訓練を行なっている。幸いにも海上自衛隊の潜水艦では沈没あるいはそれに類する事故は起きていないが、アルゼンチンの事例を他山の石としてほしいものだ。

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2017年10月31日 (火)

中国中央軍委の顔ぶれ

先週開かれていた中国共産党第19回党大会を経て、党の中央軍事委員会の顔ぶれが決まった。この顔ぶれが今後5年間、中国人民解放軍を指導する。

主席・習近平
副主席・許其亮(空軍上将)、張又俠(上将)
委員・魏鳳和(上将)、李作成(上将)、苗華(海軍上将)、張升民(中将)

まず目につくのは委員がこれまでの8名から4名に減ったこと。これは2016年初頭に行われた人民解放軍の改編が関係しているだろう。いわゆる4総部が7つの部門に改編されそれぞれの重みが小さくなり、7大軍区が5大戦区に改編されるとともに軍種としての陸軍司令部が創設された。
委員はそれぞれ別に肩書きを持っている。これまでは国務院国防部長、総参謀長、総政治部主任、総後勤部部長、総装備部部長、空軍司令員、海軍司令員、ロケット軍司令員だった。新しい顔ぶれでは各軍種の司令員と、後勤部門・装備部門の長が委員からはずれることになった。かわりに入ってきたのが、軍事委員会中央紀律検査委員会書記だ。中将の張升民が党中央紀検委副書記兼中央軍委紀検委書記の肩書きをもって中央軍事委員会委員の一角を占めるようになったのは、習近平が軍においても「腐敗摘発」を進めていくという態度の表れだろう。
なお、今回の人事の直前に聯合参謀長(もと総参謀長)が房峰輝から李作成に交代しているが房峰輝は規律違反(つまり汚職だ)の疑いで取り調べを受けているという情報もある。

今回の人事を見越してのことだろう、聯合参謀長と政治工作部主任はいずれも最近交代した。聯合参謀長の交代は上記の通りだが、政治工作部主任は海軍政治委員から苗華海軍上将が就任した。海軍軍人が政治工作部主任(総政治部主任)に就任したのは初めてだ。
いっぽう、国務院国防部長の常万全が交代したという報道はまだない。しかし、常万全は今回の党大会で中央委員に選出されていないことから今後(おそらく来春の全人大で)退任することは間違いない。その後任はもうひとりの中央軍委委員で序列筆頭、最近ロケット軍司令員を退任して現在無役の魏鳳和だろう。
結局、軍委のヒラ委員4名は国防部長魏鳳和、聯合参謀長李作成、政治工作部主任苗華、軍紀律検査委員会書記張升民、というメンバーで行政・作戦・政治工作・監督のそれぞれの機能を分担することになる。

その上の副主席2名は実質的な制服組トップだ。彼らは別に肩書きを持たず軍委の職務に専念する。前期から留任の許其亮は空軍司令員の出身、さらに今回昇進の張又俠は前任の装備発展部長で、いずれも技術に明るいと考えられる。ヒラの委員には技術職が含まれなくなったが、副主席にこうしたメンツが配置されたことから軍近代化の流れは今後も続くのだろう。

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2017年10月16日 (月)

「戦争のはらわた Cross of Iron」

戦争のはらわた 公式

1977年公開の伝説的な戦争映画。三十一が最初に知ったのはアバロンヒルから出ていたボードゲームのタイトル「クロスオブアイアン」から。スコードリーダーシリーズの拡張モジュールだったと思う。もちろんゲームのタイトルは映画に由来する。

東京での上映が今度の金曜日までということなので、雨の中を新宿まで出て見てきました。仕事の関係で土曜日は外出できなかったので、この週末で観るとしたら今日しかなかった。

まず、最後のシーンで頻繁に登場する T-34 だけど改造しているようには見えない。冷戦中の1970年代にどうやって本物の T-34 を入手したんだろう。もっとも T-34 でも T-34/85 のように見えた。1943年という時代設定とは少し合わない。それから、けっこうはじめのほう、爆撃しているソ連空軍(という設定)の単発機だが逆ガル翼から F4U コルセアのようだ。

映画の本題に戻ると、この時代のドイツでもやはりまだ階級が社会的に大きな意味を持っていたのだなあと思う。日本にいるとあまり意識しないけれど。プロイセンの貴族階級(ユンカーかな)出身というシュトランスキーの家族や一族には同じように軍に将校として勤務して鉄十字章を授章した者がたくさんいるんだろう。下士官で、おそらくは庶民階級出身のシュタイナーにとっては、鉄十字章のためにわざわざ安全なフランス駐留部隊からロシア戦線に志願してくるなんて理解できなかったろう。
連隊長はむしろシュタイナーに理解を示していたようだが、シュタイナーからしてみればそれも所詮将校階級からの同情あるいは偽善にしか見えない。それくらいドイツでの階級間の溝は深い。
それから、鉄十字章を申請するのに二名以上の証言と署名が必要というのは興味深かった。こうした厳密さというのはいかにもドイツらしく思える。

最初に紹介したとおり、東京での上映は今度の金曜までということだが、平日の昼間に時間がとれるならぜひ観るべきだろう。ペキンパー監督の演出による戦闘シーンをスクリーンで観るだけでも価値がある。

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2017年9月16日 (土)

「ダンケルク」

映画「ダンケルク」 (公式サイト)

観てきました。

世間(そのスジの世間)では、ヤク改造のスピットファイアが主に英国面に堕ちた人々の間で評判になっていたようだけれど、同じ英国面でも海のほうに堕ちた三十一にとってまず目をひいたのはイギリス駆逐艦だった。
もちろん当時のイギリス駆逐艦はすでに残っておらず、フランスの記念艦 Maille-Breze (読み方わからん)をそれっぽく改造したそうだが、ぱっと見 「悪くない」と思った。船首楼船型、二本煙突、前後に背負式に装備された砲塔。台詞で登場した艦名は「バンキッシャー」だったがこれはおそらく Vanquisher で、いわゆる V 型駆逐艦(時期的に第一次大戦型)のうちの一隻ということだろう。
実際に「演じた」 Maille-Breze は 1950年代建造の Surcouf 型駆逐艦ということだが、粗を探せば「マストに電子装備らしきあれやこれ」とか「後甲板に VDS らしきもの」とか「全体に上構のシルエットが高い」とか色々文句をつけるところはあるにしても、CGを使わず実艦を使ったことを考えればよく出来ている。
実際のダンケルク撤退戦からすでに 77年も経っており、かつて「戦艦シュペー号の最期」に「本人」が登場したような芸当はもはや不可能だ。

さて映画の感想に移ろう。
アカデミー賞最有力との前評判だが、それは多分海のむこうでの話だろう。日本の単なる「映画好き」にはほとんどの場面が意味不明に見えるだろう。それくらい背景説明が無い。台詞にも出てこない。「これくらい知ってるよね」という前提で全て話が進む。というか、進むような話自体がない。ただひたすら戦闘と兵士や民間人の悪戦苦闘と死が描かれる。
かと思うと、イギリスで徴用された民間船がダンケルク沖合に到着したところであたかも「めでたしめでたし」とでも言うような演出がなされる。このあとの戦闘も多少描写されてはいるもののエピローグのようだ。実際には民間船も動員した撤退とそれを阻止しようとするドイツ海空軍の攻防がもうひとつの山場であったはずなのだが。

要するに、ドイツ軍のフランス侵攻から英軍の撤退という一連のキャンペーンの中から、ダンケルク撤退戦の、さらにその中のごく一部の時間帯だけを前後から切り放して目の前に放り出されたような印象。突然話が始まって突然終わる。背景を知らない人間には厳しい映画だろう。評価は分かれると思う。

自分は、船と飛行機を見るため「だけ」に DVD/BD が出たら買うかも知れない。

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